桜舞う月の夜に
晴夜は笏を口元から離し、にっこり笑った。
「で、その狐のことで何故呼んだんだ?」
「それは君に協力し…」
「断る」
晴夜が言い終わる前に、きっぱりとそう言って隆雅は立ち上がった。
「まだ言ってないのに…」
「協力って…どうせ、ろくでもないことだろう?お断りする」
隆雅はくるりと晴夜に背を向け、御簾を潜ろうとした。
「ただ、夜道を歩いてくれればいいんだけど…」
ぼそりと呟いた晴夜に隆雅の足が止まる。
「…夜道を歩くって…もし襲われたらどうするんだ?」
「え?だって君、物の怪信じてないんだろう?」
「信じる信じないじゃなくて、興味がないだけだ」
「ややこしいね」
渋い顔をする晴夜を見ながら、ふと隆雅は思った。
どうせあの朧という女に夜道を歩いて行くのだから、丁度いいのではないかと…。
それに晴夜には色々と世話になってるし、少しは協力しないと…。