桜舞う月の夜に
「さてと…、そろそろ行かないと後で父上が煩いな…」
隆雅はそうぼやいて、出仕しに足を速める。
歩いていると、道の途中でたくさんの人が集まっているのが見えた。
何だ?と隆雅はそこに近づき、人々の話を聞いてみた。
「また出たらしいよ。今回は二人が犠牲になった」
「またか?…死体見たか?」
「いやいや…あれはあまりにも無残な姿で…。思い出すだけで吐き気がする。見なければ良かった...」
…物の怪、か…と隆雅は人々の話を聞いて納得した。
この都には物の怪がよく出る。
人間の怨念やら何やらとこの都に集まりやすいのだ。
そしてここ最近、ある物の怪が夜現れ、人を襲うということがあった。
そして襲われた者は命を奪われる。
今朝もこのように人が集まっているのは、昨夜もその物の怪に襲われ犠牲になった者がいたらしい。