桜舞う月の夜に
広信は隆雅より二つ年上で、同じ蔵人として勤務している。
「そうですね。そろそろ帰る支度をしないと…」
隆雅は、そう言い立ち上がった。
「そうだな」
広信も立ち上がる。
部屋を出て二人は歩き出す。
「それにしても、酷いものだな」
「何がですか?」
不満そうに言う広信に隆雅は首を傾げた。
「他の蔵人の奴ら、俺たちに仕事を押し付けて、先に帰るんだぞ?酷いと思わないか?」
「まぁ…仕方ないことですよ。世間では物の怪が出るとかで騒がしいですし、みんな暗くなった通りを歩きたくないんでしょう」
「…隆雅は平気なのか?」
「平気も何も、興味ないですから」
「興味ない、ねぇ…」
広信は呆れた様子で、隣の隆雅を見た。
隆雅は容姿が整っていて、優秀な青年だと広信自身それは認めていた。
だが、少しくらい世間の噂にも興味くらい持ってくれればと最近思うようになってきたとか…。