桜舞う月の夜に

「そういう奴に限って、襲われるんだぞ?」


「そうですか。…早く帰りますよ、広信殿」



広信の忠告を軽く受け流して、先に外へと行ってしまった隆雅を慌てて広信がその後を追う。



―――今夜は満月。



暗闇の中を歩く二人を月の光が照らした。


*******


「…はぁ」



自宅へと帰った隆雅は廂(ひさし)でぼぅっと、夜空に浮かぶ満月を眺めていた。



「どうしたのですか、兄上」



そう言って、隆雅の隣に座った義隆(よしたか)。



義隆は隆雅の年の離れた弟で、まだ十二歳である。



それでも隆雅に負けないくらい賢い子であった。



「…退屈だ…」


「はい?」


「だから…退屈だなぁーって…」



相変わらず、ぼんやりと満月を眺めている隆雅。



満月が霞んで、辺りは薄明るい。



どうやら、今夜の月は朧月らしい。



「退屈ですか?毎日忙しいのに…」



義隆は意味が分からないと言うようして、眉をひそめた。



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