桜舞う月の夜に
「そういう奴に限って、襲われるんだぞ?」
「そうですか。…早く帰りますよ、広信殿」
広信の忠告を軽く受け流して、先に外へと行ってしまった隆雅を慌てて広信がその後を追う。
―――今夜は満月。
暗闇の中を歩く二人を月の光が照らした。
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「…はぁ」
自宅へと帰った隆雅は廂(ひさし)でぼぅっと、夜空に浮かぶ満月を眺めていた。
「どうしたのですか、兄上」
そう言って、隆雅の隣に座った義隆(よしたか)。
義隆は隆雅の年の離れた弟で、まだ十二歳である。
それでも隆雅に負けないくらい賢い子であった。
「…退屈だ…」
「はい?」
「だから…退屈だなぁーって…」
相変わらず、ぼんやりと満月を眺めている隆雅。
満月が霞んで、辺りは薄明るい。
どうやら、今夜の月は朧月らしい。
「退屈ですか?毎日忙しいのに…」
義隆は意味が分からないと言うようして、眉をひそめた。