さよなら、神様
失楽園
あたしが高校を退学したのは、三年になったばかりの春。

4月のことだった。

丘の上にある女子校に中学から通い始めて5年。

あたしはあの、まったりとした蜂蜜みたいな女の子の世界から、抜け出す事を決めた。

退学届けを出した日、桜は散りはじめていた。

あたしは長い坂道を、誰も居ない坂道を、唇をぎゅっと噛みしめて登った。

桜吹雪が狂ったように乱れ舞い、少しでも口を開いたら、花びらを飲み込んでしまいそうだったから。

坂の上にある校門も桜吹雪にかすんで見えた。

それはいつもよりずっと遠くに感じられ

歩いても歩いても

永遠にたどり着けないんじゃないか

そんな事を思いながら、口を閉ざし、うつむいて、桜吹雪の中を一歩一歩進んだ。

校長室には担任や学年主任や生活指導、何人かの大人がいた。

宇宙語より言葉が通じない大人達の間であたしはまた、口を閉ざしたまま。

桜の花びらがあたしのストレートのロングヘアーに絡まっていた。

指先で花びらを一枚、つまむ。

淡いピンクの花びらは、指の間で溶けてしまいそうなほど、薄っぺらで儚い。

儚さとは弱さ。

あたしは弱い自分が嫌いなんだ。
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