One and Only

4.

「うーん……私も行きたいけど、産後間もなくじゃいくらなんでもねぇ」

 義姉さんも、受話器の向こうでため息をついていた。義姉さんとは何度か一緒に行ったことがあるけれど、さすがに妊娠・出産してからは声をかけられなかった。

「九段会館でピアノ一本でライブなんて、この子が産まれる前じゃ絶対行ったんだけど」

 そういううちに、子供がぐずり出している声が聞こえてくる。義姉さんに代わって兄貴が電話に出た。

「お前、他に誘うような男いないのかよ」

 何気ないその一言が、胸にささる。

「いれば兄貴のとこには電話してないってば……」

「あ、マサヒロなんかどうだ? あいつだったらお前のこと良く知ってるから、ついでに飯ぐらいおごってくれるぞ」

 こうなってくると、兄貴は半ば面白がっているようだ。
 渋々、私は電話番号をメモした。
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