恋する旅のその先に
男ってやつは、往々にしてガキの頃に1度くらいは好きな女の子に意地悪をしてしまっているものだ。
俺もしかり。
あれは小学校の中学年の頃。
俺はクラスで1、2を争うようなガキ大将で。
この頃の男というのは、
「俺たちは男で、あいつらは女だ」
なんていう妙な共通意識みたいなものがあるもんなんだ。
特に男みたいなガキ大将はそいつを全面に押し出すことにガキながら使命感を持つ。
なもんだからちょいと気になる女の子がいてもそいつを素直に出す“わけにはいかない”のだ。
それが結果“好きな女の子に意地悪をする”という行為につながるわけ。
その日は体育で男女混合のドッジボールがあって。
彼女は敵チーム。
そうなると俺のターゲットは当然のことながら真っ先にその子になる。
ただコイツは何も意地悪をしたいだけじゃなくって「俺以外のやつにはやらせねぇ」などというねじ曲がった独占欲だったりもする。
かくしてゲーム早々ボールを要求。
それを我が手につかんだ俺は焦りと興奮とで力の加減を忘れて彼女へ渾身の一投を──
「きゃぁっ!!」
そいつが運悪く彼女の頭へ直撃をしたのだ。
「マズイ!」と思ったのもつかの間。
倒れたその子は打ち所が悪かったのか、びっくりし過ぎてしまったのか。
なんとそのまま気絶。
先生に背負われて保健室に。
騒然とし、静まり返るクラスメイト。
俺は背中に気持ちの悪い汗をかきつつも、素直に心配気な表情をすることも出来ず。
ただばつが悪そうに足元の小石を、
「トロいやつ……」
そんな悪態をつきながら蹴り飛ばすことしか出来なかった。