恋する旅のその先に

 こっそりと。

 彼の気を削いでしまわないよう、こっそりと顔を覗き見る。

(あは……)

 なんてやさしい瞳だろう。

 そよ風よりもなおささやかに頬を緩ませ、十六夜を過ぎ、臥待月(ふしまちづき)を思わせるその瞳はあたたかく。

 ここで彼女が彼にとってどういう存在なのか、わざわざ訊くなんて無粋というものだろう。

 それくらい、その微笑みがすべてを物語っていた。

 彼にとっての旅のゴールはどうやらここだったようだ。

 なら私は退散するとしよう。

 ここはあくまでも彼にとっての終着駅であって、私にとっては通過駅なのだから。

 と、

「えっ!?」

 不意に立ち上がり、白の城に背を向けて歩き始める彼。

 その足取りは来たときと同じく、いやそれ以上に迷いなく潔い。

 でも、どうして?

「ね、ねぇ!! あなたはあのお姫様に逢いにきたのでしょう?」

 私の言葉に足を止める彼。

 けれども振り返りはせず、前を見据えたまま、

「なぅ……」

『えぇ……』

 平常心を装うための何ひとつ感傷を挿まないその声がむしろ醸す、不自然。

「じゃぁ、どうして眺めるだけなの?」

『…………』

「逢いたいんでしょ? そのためにここまできたんでしょ?」

『…………』

「彼女、待ってるんでしょ? あなたのこと──」

 声は聞こえなくても、遠目で見るだけでも、わかる。

 だって同じ女の子だもの。

 あれは──待っている瞳だ。

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