恋する旅のその先に

「なぅ……」

『この旅の先に大切な何かがあるのか、それとも何もないのか……それはわかりません』

 それでも旅を続けるのは、そうしなければ得られないものがあることを知っているから。

 使い慣れた椅子に座っているだけじゃ見つからない。

 例えばあのポプラ並木の足元に──

 たこやき屋のにおいの先っぽに──

 路地裏隅に落ちたゴミ袋の中に──

 とても手が出ない服の値札裏に──

 10個目に突入したケーキの間に──

 思いがけない所にそれはいつだって隠れてるのだ。

 呼ぶべき名前も、形も、色もないけれど、確かに。

 いくつ集めればいいという答えは、ない。

 だって私たちは自分で見切りをつけない限り、いつまでもどこまでも成長していけるから。

 それに歩き切るには、

「なぅっ」

『さぁ、いきましょう──』

 案外と世界というやつは広い。

『日が暮れるにはまだ早い』

 たぶん、彼とは夕闇の曲がり角で道が別々になってしまうことだろう。

 けれどもそのときにはきっと、お互いのポケットに小さな宝石が入っているはずだ。

 それは新しい出逢いの扉を開くための鍵。

 今日という冒険がまだ空白だらけの私の地図に書き込んだ新しい道程。

「ねぇ……」

 先をいく彼を追うために自転車のスタンドを終い、勢いづいて追い越してしまわないようにのんびりと歩き出す。

「あなたの名前、勝手につけてもいい?」

「なぉ?」

「そうね……“モトル”なんてどう?」

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