恋する旅のその先に
穴の空いた靴下を気にも留めなくなってから、どれくらいの時間が過ぎただろう。
おまえがそばにいた頃は、シャツのシワひとつも許せないくらいだったのに。
今の俺ときたらそんなことはおかまいなし。
無精髭だって絶賛育成中さ。
大切なものは失ってから気付くなんてことをよく聞くが、ありゃ正しくはないな。
大切だってことくらい、誰だってわかってる。
それでも、どうしようもないときが人生の中にゃあるもんだ。
大切なものがひとつなら、簡単な話。
けれど、そうじゃない。
大切なものを守るために別の何かを大切にしなきゃならなくて、それをまた守るために別の何かをさらに大切にしなきゃならない。
そうやって、大切なものってのはねずみ算式に増えていく。
例えそれらに順位がついてしたとしても、塔のてっぺんばかりを気にして土台をおろそかにしたんじゃぁ結局いつかそれは崩れさっちまう。
そういうもんだ。