恋する旅のその先に
少年のような瞳を夜空に向けるスーツの男性。
灯りの乏しいここでは彼の歳まではわからない。
でも“オジサン”と呼ぶにはまだ早い声のような気がする。
「こんな夜は、お酒が実に美味しくもあり、淋しくもありますね」
そんな言葉を聞いて思わず買い物袋を後手に隠す。
ガサリ、と音を立てて揺れたそれは膝の裏辺りを叩いた。
次いで缶ビールが肌に触れ、ひやっ、とした感触が。
「時間と景色を独り占めできるのは、ひとり者の特権だと、思うのですけど?」
「それも確かに」
今のがただの強がりだと、わかってしまったかしら?
彼の声だけではそれを判断できない。
でもどうしてか、悟られてませんようにと願う自分がいる。
「ただ……」
「ただ?」
「2という数字は案外強力で。チーカマなんてほら、チーズとカマボコがひとつになっただけなのに、あんなにも美味しい」
「はぁ……」
なんだかわかるようなわからないような。
軽く小首を傾げると、
「はは。何をいってるんでしょうねぇ」
彼は頭をかいた。
表情はよく見えないけれど、きっと苦笑いをしているに違いない。