恋する旅のその先に

 ひとつひとつを丁寧に段ボール箱に詰めていく。

 詰めるだけ、詰めていく。

 2度と開くことはないだろう物たちをひとつにまとめて、詰めていく。

 荷物をすべて壁際に寄せ、部屋の中心に寝転がってみた。

 カーテンもレースも取り払った窓から、やさしい角度で陽射しが入り込む。

 それはまぶたを下ろした瞳に程よく刺激を与えた。

 まったく。

 失恋の度に引っ越しをするだなんて非経済的にも程がある。

 けれども食器棚を避けた後ろの壁についた“日焼け”の境目ように、この部屋には彼と紡いだ記憶があまりにもくっきりと残っていて。

 とても、ひとりきりで時間を重ねていく自身がない。

 溢れ出そうになるモノは、残念ながらガムテープくらいでは閉じ込めていられない。

 だから真新しい場所が、わたしには必要なのだ。

 逃げているだけだと人はいうかもしれないけれど。

 確かに逃げているだけだとは思うけれど。

 そうしなければ、前に進めないから。

 それだけ、強い想いだったから。


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