恋する旅のその先に
その男性店員は私の声には気付かなかったのか、コーナー上で散らかった商品たちを丁寧に陳列し直しながら、
「ごめんなぁ……」
と、私が近くにいることなど気にも留めず、独り言を──いや、語りかけを続ける。
「俺たちがもっとお前たちのことを美味しいとアピールしてやれればなぁ……。お前たちは恥ずかしがりだから、自分じゃしゃべれないのになぁ……」
若干声が震えているのはたぶん気のせいではなくて。
「お前は小さく切って、チャーハンと一緒に炒めれば美味いのになぁ……」
さつま揚げ。
「あぁお前は40度くらいの、そうさ、お風呂に入れてあげれば瑞々しくなるのになぁ……」
レタス。
「あぁなんてことだ。なんてことなんだ……。鳥ミンチを塩コショウと生姜、酒、醤油で味付けをして団子状にしたものに適当に細かくしたお前をまぶして揚げて、出来立てにレモン汁をかけて食べればパリパリジューシーな素敵揚げ団子になるっていうのになぁ……」
季節外れのソーメン。
「パスタの代わりに使うっていう手もあるっていうのに」
ソーメン。
「お味噌汁に入れても美味しいのに」
ソーメン。
「茹でて水気を切って丸めて揚げて塩をかければ手軽なおやつになるっていうのに」
ソーメン……って、ずいぶん余ってるのね、ソーメン。