恋する旅のその先に

 男は窓際のカウンター席に座り、久方ぶりのファストフードに「存外な美味さ」と舌鼓。

「珈琲も悪くないじゃないか」

 などとまんざらでもない様子で外の景色に目を細める。

 女はというと、

「ん~。あ。や、ん~」

 メニューとにらめっこ。

「よしっ」

 ようやく決心したのか顔を上げ、

「お決まりですか?」

「はいっ」

「店内でお召し上がりですか?」

「持ち帰りで」

「かしこまりました。ご注文は……」

「っとですね──」

 そのときだった。

 食事を済ませて席を立った男がレジを通り過ぎようと女の後ろを通る際、

「きゃっ」

「あっと、すみません」

 たまたま──“偶然”にも、男の買い物袋が女のバッグにぶつかったのだ。

 男の荷物の中身は電飾等の部品であったから、それは何の問題もない。

 ところが女の荷物はというと、

「あ……」

 バッグに挿しておいた、包装紙にくるまれたガーベラが床に落ち、運悪く、首の部分が折れてしまったのだった。

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