恋する旅のその先に
男の左手にはホームセンターの袋。
女の右手にはファストフードの袋。
ふたりの間には真新しいガーベラが一輪。
今度は簡単に折れてしまわぬよう、カスミソウを周りにあしらって。
「すみませんでした。私の不注意で」
「い、いえ。わたしの方こそ注文に気をとられてましたし。それに新しいものを買っていただいて、こちらこそすみません」
少しうつむき加減で頬をほんのりと色づかせる女。
男は少しばかりこころがくすぐったくなり、にこやかに微笑んだ。
そして女のバッグに挿された花に視線をやると、
「自宅で、飾るのですか?」
「え、えぇ……ふふ」
「? どうされました?」
風に草木が揺れるように、女は軽やかに笑うと、
「実は、少し前にですね……」
ことのいきさつを語り始めた。
それは偶然なのか、必然なのか。
不思議な瓶の魔力なのか、かの男女の願いゆえなのか。
彼ら自身が持っていた運命なのか。
それは誰ひとりとして知る由もない。
ただ、引力にその核となるものがあるとするならば、それはあの瑠璃色と琥珀色の瓶であったことは間違いないだろう。
けれどもそれは、奇跡のきっかけに過ぎない。
海へ放つことも。
拾い上げることも。
電飾でランプ代わりにすることも。
キッチンに自然の色を添えることも。
ファストフードでポテトを頼むことも。
ポテトをやめてコールスローに変更することも。
すべては──自らが選んだことなのだ。
すべては──自らが選ぶことなのだ。