恋する旅のその先に

 男の左手にはホームセンターの袋。

 女の右手にはファストフードの袋。

 ふたりの間には真新しいガーベラが一輪。

 今度は簡単に折れてしまわぬよう、カスミソウを周りにあしらって。

「すみませんでした。私の不注意で」

「い、いえ。わたしの方こそ注文に気をとられてましたし。それに新しいものを買っていただいて、こちらこそすみません」

 少しうつむき加減で頬をほんのりと色づかせる女。

 男は少しばかりこころがくすぐったくなり、にこやかに微笑んだ。

 そして女のバッグに挿された花に視線をやると、

「自宅で、飾るのですか?」

「え、えぇ……ふふ」

「? どうされました?」

 風に草木が揺れるように、女は軽やかに笑うと、

「実は、少し前にですね……」

 ことのいきさつを語り始めた。



 それは偶然なのか、必然なのか。

 不思議な瓶の魔力なのか、かの男女の願いゆえなのか。

 彼ら自身が持っていた運命なのか。

 それは誰ひとりとして知る由もない。

 ただ、引力にその核となるものがあるとするならば、それはあの瑠璃色と琥珀色の瓶であったことは間違いないだろう。

 けれどもそれは、奇跡のきっかけに過ぎない。

 海へ放つことも。

 拾い上げることも。

 電飾でランプ代わりにすることも。

 キッチンに自然の色を添えることも。

 ファストフードでポテトを頼むことも。

 ポテトをやめてコールスローに変更することも。

 すべては──自らが選んだことなのだ。



 すべては──自らが選ぶことなのだ。

 
< 95 / 110 >

この作品をシェア

pagetop