実体験記 風花(かざはな)
少し…
荒々しいが決して嫌な感じではなく、
2人の会話はまるで日本映画のワンシーンみたいな、
そんな感じ方が出来る広島弁が飛び交っていた。
そう、
郷愁を帯びながらも
男の見栄も強さも弱さも優しさも、
男の哀愁を匂わせる言葉の韻を含んでいる様な、
私は初めて聞く広島弁をそんな風に感じた。
1人は40代前半位の男性、
もう1人は30代前半位の男性だった。
年配の男性の方はがっしりとした中肉中背で、
背丈は165㎝を少し超える位、
普段は温厚そうな瞳で陽気に話し、
豪快に大きな口を開けて笑う笑顔が
年上だけど可愛らしく思えた。
だが…
段々と酔いが回ってくると
時折見せるあの瞳は、
今でも印象に残る。
まるで…
猛禽類の様な
鋭い目つき、
何時もとは違う笑う表情に、
冷たく光るその瞳を
向けられた時、
背筋が冷たくなった印象を
はっきりと、
そう…、
今でもはっきりと
思い出される。
年若の男性は背は180㎝以上の長身なのに、
いつも背を丸めるようにいるせいか、
彫りの深い顔立ちに
余計に影を落としていた。
いつも、
皆で談笑している中でも、
笑わずにカウンターに視線を落としていた、
寂しそうな雰囲気を
醸し出していた。
ある日、
客が引けた深夜近くの事だった。
片付けも一段落して
グラスを磨く。
私は、
グラス磨きが嫌いでは無い。
むしろ、
あの音が気持ちいいし、
何も考えなくて良い時間というものは、
疲れている神経に心地良く響いた。
グラスの共鳴に心馳せていると、
年配の男性が話し掛けて来た。