実体験記 風花(かざはな)
実際、
幼い頃から任侠の会長さんと亡き祖父は付き合いが有り、
一、二度お会いしたが恐いという感情は無かった。
まだ、
その頃の若さ溢れる私には実際の裏家業の恐さや悲しみは、
半分も解らずに絵物語を聞いて居たんだろうとも言える。
その後も
色々な話が続いた。
いつも
下を向きあまり笑わない人が、
初めて見せる
楽しそうに声を上げて笑い、
少し青年の様にはしゃぎながら喋る姿に、
私は隣で
嬉しさと愛おしさが
湧き上がってしまった。
ビールを5、6本位飲んだだろうか、
少し頬が熱を帯びて
高揚してしまう。
店を出て
深夜の寝静まった街に足を踏み出すと、
街路灯が静かに
歩道を照らし
その光が道路まで伸びていた。
2人の影が交わり延びて行く。
だけど、
その先には別れて延びる影の先。
私は…
もし、彼を好きになっても
この恋は…
苦しく切ない
この影の様な別れが来るのを
解っていたのかもしれない。
繋いだ彼の手が
汗ばんでいた。
だからかもしれない、
それを意識した途端に、
私まで不意に
心臓がドキドキしてしまった。
寒気吹く風の中
不意に彼が立ち止まり、
空を見上げて手を離した彼が
口を開いた。
「此処は…
…この街には
あまり…
星が見えんなぁ。」
「…星?あぁ、そうね。ほんとぅ。
今日は雲が厚いから…」
私が続けて言うと、
彼が答えた。
「いや、
夜空の雲まで明るいやろ。
光が、
そう、
光が強いんや…な。」
「まるで、
光が雲を優しく包んでるみたいね。」
そう私が言い返すと同時位に
彼が向き直り、
両腕が私に伸びて…