不機嫌な果実
〈7〉マスカットの魅力
8月最終の土曜日。
麻紀たちは社員旅行で伊豆・修善寺に来ていた。
「お帰りなさいませ」
「あっ、どうも。お世話になります」
数寄屋造りのホテルの玄関に到着すると、女将さんを始め、大勢の中居さんが挨拶で出迎えてくれた。
「ご自宅に戻られた気持ちで、ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
若女将は柔和な微笑みをもたらした。
麻紀とあまり変わらない年頃だろう。
身体の線は細かったが、目鼻立ちのはっきりとした顔立ちに、華やかな着物がよく似合っていた。
その風格たるや、大したものだった。