不機嫌な果実
『葵の間』へ入ると、部屋の中は藻抜けの殻だった。
開け放した荷物が、和室の隅に3つ並んでいた。
10畳ほどの和室には、次の間があり、さらには広縁があり、竹林を部屋から臨める造りになっていた。
たまたま空き室があったとかで、麻紀たちの部屋は檜風呂付きの部屋にグレードアップしてもらった。
浴室のドアを開けた途端、檜の香りに包まれ、森林浴をしているかのように感じた。
「うわっ、いい香り〜」
やっぱり一風呂浴びよう。
みんなが行った露天風呂のある大浴場ではなく、部屋の檜風呂で。
「あー、気持ちいい」
森林を独り占めしているようだった。
木の香り漂う檜風呂に浸かり、長旅の疲れを癒した。