不機嫌な果実
ダブルのスーツに身を包み、メガネの縁を何度も上げる社長から片時も目が離せなかった。
意志の強そうな太い眉毛。
存在感のある大きな鼻。
年輪が刻まれた眉間の皺。
鼻の左下にある大きな黒子(ほくろ)。
そんな社長の口元が、一瞬緩んだのを麻紀は見逃さなかった。
「今回は、渡辺くんに任せたよ。頑張ってくれたまえ!」
トントンと、テーブルの上で企画案を揃えた社長は、はっきりとそう告げた。
「はいッ!頑張らせて頂きます。ありがとうございました」
深々と頭を下げた麻紀は、パイプ椅子を中に押し込めると、丁寧にお辞儀をし、静かに会議室をあとにした。