不機嫌な果実


軽く頭を下げた小菅の髪の毛が、いつもは動きのあるヘアなのに、見事にぺったんこだ。


まだ髪の毛が濡れているから、きっと急いで風呂を上がったのだろう。


夏だからいいものの、冬だったら風邪引いちゃうわよ、と麻紀は口に出しそうになった。


「皆さんはくじ引きですけど、渡辺さんは僕の隣でいいですよね?」


入り口そばに置かれたサッカーボール大の箱に手を入れた女性社員が、さっきからキャーキャー騒いでいる。


宴会での席は、かなり重要だ。


「うん、いいわよ。飲み物とか注文しなきゃならないしね」


「よかった。渡辺さんがいてくれたら心強いや。じゃ、そろそろ始めましょうか!」


少年のように笑う小菅が、やけに今日は可愛く見える。

髪の毛が濡れているせい?

なんだか、いつもより幼く見える。


そして、刺がないから不思議。



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