不機嫌な果実


「皆さん、長らくお待たせしました!
これより宴会をスタートさせたいと思います。
まずは、乾杯の音頭を。社長よろしくお願いします!」


小菅に指名された社長は、浴衣の前がはだけないよう手で押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。


いつも以上に歩くスピードが遅い。


「こんばんは!
長旅お疲れ様でした。今日は日頃の疲れを取って、みんなで楽しく飲みましょう。ここでは無礼講です。では、乾杯!」


「「「かんぱーい!!」」」


あちこちでグラスを合わせる音が鳴り、すぐに拍手が沸き起こった。


もちろん、隣に座る小菅ともグラスを合わせた。


「「乾杯!」」


グラスに半分ほど口をつけた小菅は、おしぼりで手を拭くと、おもむろに立ち上がった。


「それでは、暫しご歓談下さい。次々と料理も運ばれてきますので、飲み物の追加があったら遠慮なく言って下さい」


場を仕切るのがうまい。


声の通りもいい。


そして、愛想を振る舞うのも忘れない。



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