不機嫌な果実
「わかります?渡辺さんのために魔法をかけてみました!」
「はっ?――魔法?何、らしくないこと言ってるのよ!」
「僕らしくないですか?せっかく注ぐビールです。大切な人には美味しく飲んでもらいたいじゃないですか?だから、魔法をかけたんです」
なんなの、いったい!
魔法だなんて!
今どき小学生だって言わないわよ、そんな台詞。
そんな馬鹿げた話を、真面目な顔して言わないでよ!
おまけに、今、何か言わなかった?
――大切な人が、なんとかって。
大切な人って……まさか、私?なわけないわよね。
焦ったわ。そんなことあるはずないのに。
頭がおかしくなってきた。
酔いが回ってきたのかな。いや、そんなにまだ飲んでないはず。
いいや、訳がわかんないから飲んじゃえ!
麻紀は、並々と注がれたビールを一気に飲み干した。