不機嫌な果実


――零れなかった。


見事に、グラスの中のビールは二層に分かれた。


「ねぇ、やっぱり巧いよね。注ぎ方に何かコツでもあるの?」


「だから、さっきも言った通り、魔法ですよ。あとは、気持ちです」


涼しげな顔で言い放つ小菅に、麻紀は突っ込みを入れた。


「ねぇ、それ本気で言ってるの?」


「もちろんです」


悪怯れた様子もなく、素直に頷く小菅に、何か釈然としないものを感じた。


「中澤さん、どうぞ」


小菅は、右隣に座る庶務課のベテラン中澤さんにも同じように注いだ。



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