不機嫌な果実


手持ち無沙汰な麻紀は、目の前のテーブルに並べられた料理に箸を付けることにした。


駿河湾沖で捕れた、色とりどりの新鮮な魚介類。


鮑やホタテ貝が炭火の上でジューッと音を立て、ゆっくりと顔を覗かせる。


「渡辺くんも一杯どうだい?」


「はい。ありがとうございます」


並々と注がれたビールを口に含む。


……あれ?さっき飲んだビールとは味が違う?


……そんな馬鹿なことはないわよね。同じ銘柄だし。


「どうかしたかい?」


「いえ。なんでもありません」


向かいに座る部長の話に適当に相槌を打ちながら、麻紀は箸を動かした。



< 119 / 210 >

この作品をシェア

pagetop