不機嫌な果実
手持ち無沙汰な麻紀は、目の前のテーブルに並べられた料理に箸を付けることにした。
駿河湾沖で捕れた、色とりどりの新鮮な魚介類。
鮑やホタテ貝が炭火の上でジューッと音を立て、ゆっくりと顔を覗かせる。
「渡辺くんも一杯どうだい?」
「はい。ありがとうございます」
並々と注がれたビールを口に含む。
……あれ?さっき飲んだビールとは味が違う?
……そんな馬鹿なことはないわよね。同じ銘柄だし。
「どうかしたかい?」
「いえ。なんでもありません」
向かいに座る部長の話に適当に相槌を打ちながら、麻紀は箸を動かした。