不機嫌な果実
「ここじゃなんだし、移動しないか?」
相澤に連れられやってきたのは、宴会場から少し離れたエレベーターホールだった。
そこには山車がどんと置かれ、中には大きな花瓶とともに大輪の花が生けられている。
エレベーターホールに立ち込めるお香と生花の香り。
それを囲むように縁側が敷かれ、朱色の毛繊に腰を下ろした。
ちょうど目の高さに小窓があり、そこから竹林の庭園を眺められるような造りになっていた。
「綺麗ね。ホタルでも飛んできそうな感じ」
昼間とは打って変わり、ライトアップされた夜の竹林は幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「あぁ」
短く頷いた相澤は、一度だけ麻紀の顔を見た。
その顔が、なんとなく寂しげに映ったのは気のせいだろうか。
「ねぇ、さっきの話だけど、あたしに言っておきたいことって何?」
何か、嫌な予感がする。
でも、ここまできて聞かないわけにはいかない。