不機嫌な果実
「あぁ。俺さ、9月1日付けで関西支社に異動することになったんだ。まだ内示だけど」
「えっ、異動?」
コクンと頷く相澤に、ごくんと唾を飲み込んだ。
動揺を悟られまい、と咄嗟に喉仏に手を当てていた。
相澤が異動する……。
同期として六年間共に働いてきた仲間。そして、元彼氏。
「そう。それはよかったわね。栄転ということかしら?」
「いや、まだ詳しいことは分からないんだ。関西支社の山口さんが退職することだけは部長から聞いたけど」
山口さんと言えば、関西支社の営業部の部長さん。
バリバリの営業畑を踏んできた方で、売上実績が認められ、38歳の若さで部長を命じられたなかなかのやり手。
甘いマスクとお洒落な山口さんとは、本社で何度か面識がある。
彼に憧れている女性社員が多いのも確か。
でも、残念なことに、山口さんは入社早々に結婚した妻帯者だ。
上の子どもは、もう中学生になるはずだ。