不機嫌な果実


「俺さ、結婚することになった」


「――結婚!?誰と?いつ?」


もはや冷静ではいられなくなった。


元彼が出世するのは嬉しい。


けれど、結婚するとなると話は別だ。


女心はいつだって複雑にできている。


自分より先を越されることに、無性に焦りや嫉妬を感じてしまう。


「麻紀も知ってると思うけど、菊池さん。彼女は今月いっぱいで退職することになってる。彼女から何か聞いてるか?」


「あ、あぁ。……菊池さんね。まだ何にも聞いてないわ」


麻紀は、冷静さを装おいながら、美和の甘ったるい声と媚を含んだような眼差しを頭に浮かべた。


美和が相澤のハートを射止めた、って訳か。


あたしとは、まるっきり違うタイプ。


相澤もその辺の男と一緒。


従順な彼女を妻に選んだというわけね。


家庭の中に、男は二人もいらないものね。


あたしみたいな男勝りの女は、必要とされないわけだ。



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