不機嫌な果実
「麻紀にはいろいろ世話になったよ。新入社員の頃からの付き合いだもんな。
麻紀みたいないい女は、なかなかお目にかかれないよ。
関西支社に赴任したら当分会えなくなるけど、元気でな」
小さく頷いたものの、相澤だけが仕事も結婚も手に入れるという現実を素直に喜べない麻紀がいた。
私とは結婚を白紙に戻したくせに、美和とだなんて……。
そんなの、ズルい。
「じゃ、そろそろ戻ろうか」
「あたしはもう少しここにいるわ。酔いを冷ましたいから」
「そっか。じゃ、先に行っとくな」
相澤の後ろ姿を目で追い掛けながら、麻紀はハッとした。
『おめでとう』の言葉すら掛けてあげられないなんて……。
自分自身が、ものすごく器の小さい人間に思えた。
でも、それ以上に、相澤に必要とされなかった現実が、やはり重くのしかかった。
ポツン、と涙が零れた。
――そのときだった。