不機嫌な果実


「キャッ」


突然、後ろから目隠しされた。


「な、何なの?誰?ちょっと、離してよ!」


麻紀の顔を突然襲った大きな二つの掌。


「ダメです。そんな顔、他の人に見られたらマズいでしょう」


「えっ、この声って……まさか」


言い終わらぬうちに、今度は口元に手が当てられた。


「静かにして下さい。何もしませんから。

もうすぐ一次会を終えた皆さんがここを通ります。だから、渡辺さんがこんなところにいるのはマズいです。
とにかく、人目につかない場所に移動しましょう」


「ちょっと待って!一次会の締めはどうするの?あたしたちがいないとマズいじゃない?」


「それは大丈夫です。あとのことは部長に任せてきたので」


そう言うと、麻紀の肩に手をかけ、ゆっくりと立ち上がらせた。



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