不機嫌な果実
目が合い、麻紀は慌てて逸らそうとしたが、小菅は穏やかな笑みを浮かべ微笑んだままだった。
その表情に、再び麻紀の心臓が騒ぎ始めた。
――なんなの、いったい?
あたしの頭の中はどうなってるの?
ギュッと繋がれた右手。
中学生のとき、先輩と初めてデートしたときのような気持ちが蘇る。
――落ち着け、落ち着け。
心の中で何度も反芻した。
小菅に連れて来られたのは、露天風呂から竹林の生い茂る中庭へと通じる廊下だった。
露天風呂から戻る客と入れ替わるように、旅館の外履き用スリッパで庭園へと降り立ってみる。
昼間とは打って変わって、涼しい夏の夜。
灯籠が等間隔に並べられ、暖かい灯を灯している。