不機嫌な果実
「風がありますね。渡辺さん、寒くないですか?」
「うん。ちょうどいいわ」
頬をすり抜ける風が心地よい。
さっきまで、緊張感の中に身を置いていたからなんだかホッとする。
さわさわと竹の葉を揺する風。
何十本もの竹が同じ方向に揺れるさまは圧巻だ。
耳を澄ますと、何やら虫の鳴き声が聞こえてくる。
季節柄、松虫だろうか。それとも蛩(コオロギ)だろうか。
静かな庭園に、優しい虫の音が響いている。
ひと足早く、ここには秋の訪れがやってきたようだ。