不機嫌な果実


「あー、さっきはごめんね。なんか、変なところ見せちゃって」


足を止めたところで、麻紀は小菅に詫びを入れた。


――ん?というような表情を見せる小菅に、再び麻紀の心は焦り始めた。


あんな場面を見られてしまったなんて、本当に恥ずかしい。


あぁ、穴があるなら今すぐ入りたい気分。


自己弁護するように、麻紀は早口で話し始めた。


「あっ、さっきはちょっと驚いちゃったの。
同期の相澤が、来月異動するって聞いて、あたし何も知らなかったからビックリして」


アハッと笑いながら、どさくさ紛れに繋がれた手を振りほどこうとしたけど、右手はギュッと握られたままだった。


あくまで、同期が異動になったことに驚いた風を装って。


結婚にショックを受けて、なんてこれっぽっちも思われたくない。



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