不機嫌な果実


ちょ、ちょっと待って! 険しい表情って……。


あのとき、小菅は隣に座る中澤さんと酒を酌み交わしていたはず。


盛り上がる二人の横で、確かにあたしは面白くなくなっていたのは事実。


自分だけ蚊帳の外に置かれたようで。


でも、まさか……
それに気付いていたというの?


あたしの方を見向きもしなかったくせに。


どんな顔をしたらよいのか分からず、麻紀は俯いた。


「渡辺さん」


「ん、なに?」


「相澤さんの結婚、そんなにショックですか?」


「えっ、な、何のこと?異動の話は聞いたけど、そんなこと知らないわ」


麻紀は動揺の末、咄嗟に嘘をついてしまった。



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