不機嫌な果実


「いいんですよ、隠さなくたって。でも、相澤さんの結婚に渡辺さんがこんなにショックを受けているということの方が、僕にはショックですけどね」


えっ、今なんて……?


誰がショックだって言ったの?


私がショックを受けたのは事実だけど、でも深い意味はない。


地位も手に入れ、幸せまで手にする相澤に、ある意味、嫉妬のような感情を抱いたから。


『結婚してからも仕事を続けたい』と言い張ったあたしは、相澤には不必要だったということ。


その証拠に、あの晩以降、結婚の話題に触れることもなく、あたしたちは別れたのだから。


それからのあたしは、がむしゃらに仕事をしてきた。

ある程度の地位まで上り詰めた。


後輩の指導係も命ぜられている。


情けないけど、これが現実よ。



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