不機嫌な果実


油断したら涙が零れ落ちそうになり、麻紀は天を仰いだ。


「渡辺さん」


「何よ?」


「そんなに意固地にならなくてもいいじゃないですか?」


「どういう意味?」


「相澤さんよりいい男は世の中にいっぱいいます。現に、ここにも!」


自分を指差して小菅は笑った。


「な、」


何言ってるのよ、と言い掛けたところで、小菅は無造作に髪を掻き上げ、麻紀の言葉を制した。



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