不機嫌な果実


「昔の恋を引きずるなんて、渡辺さんらしくないと思います」


「な、なに?あたしらしくないとか、引きずるとか?
それに、あたしは相澤のことなんて、これっぽっちも引きずってなんかないわ!
第一、あたしたちとっくに別れてるのよ!」


感情が高まり、つい声を荒げてしまった。


おまけに、相澤と付き合っていたことは同僚にもオフレコだったというのに。


次第に、麻紀の顔色が気色ばんだ。


はぁー、と長い溜め息をついた小菅の隣で、なぜか虚しさだけが麻紀の心に鎮座した。



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