不機嫌な果実


ぐっと距離が近付いたかと思ったら、瞬く間に小菅の香りに包まれた。


相澤とは違う、鼻腔をくすぐる香りに。


……はい?……え?


いったい何が起こったの?

てか、なんで、あたしが抱き締められてるの?


今、置かれてる状況をすぐには理解できなかった。


麻紀は微動だにしなかった。


いや、できなかった。


どのくらい抱き締められていたのだろう。


麻紀には物凄く長い時間だったように感じられた。


黙っているのが怖くなった。


でも……。


ゴクンと唾を飲み込んだ麻紀の耳元で、そっと小菅が囁いた。



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