不機嫌な果実



「――社長!?」


そこに居合わせたのは、でっぷりとした体付きの社長だった。


暗闇でも分かるくらい、社長の顔は真っ赤だ。


「渡辺くん、君らしくないぁ。こんなところで。
まぁ分別のある君のことだから、まさかそんなことはないだろうが」


――そんなこと、って?


社長、何か勘違いされていませんか?


「――ん?駿、なんだその手は?すぐに放しなさい!」


……駿!?


今、確かに社長は小菅のことを『駿』と呼び捨てにした。


社長が一社員を呼び捨てにするなんて珍しい。


ううん。


私の知る限り、初めてのことだ。



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