不機嫌な果実


「――契約?」


ますます意味が分からない。


何か、特別な理由でも?


首を傾げる麻紀を庇うように、小菅は社長を嗜めた。


「そんなこと渡辺さんに言ったら困惑するだろう?
いいから早く二次会に戻ってくれよ!
どうせ、便所に行くとか言って抜けてきたんだろ?」


「あぁ、そうだったそうだった。忘れるところだった」


社長にタメ口をきく小菅に驚き、麻紀は目を見張った。


「ほらほら早く行かないとみんなが待ってるぞ!」


小菅に半ば無理やり背中を押された社長は、よろめきながら立ち上がり、のっそりと動き始めた。


「じゃ、まぁそういうことで」


片手を上げ、くるりと踵を返した。


「――は?はい。畏まりました」


頭を下げながら、麻紀は二人の特別な関係に想いを巡らした。



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