不機嫌な果実
背中の方から客がぺたぺたと御影石の上を歩く音が聞こえる。
だんだんと湯槽に近付いてくるのが分かる。
「――お邪魔します」
少しくぐもった声がした。
それは、男性の声のようにも思えた。
「……は、はい」
慌てて蚊の鳴くような小さな声で答えたものの、麻紀の心は戸惑いでいっぱいだった。
――まさか、ここって混浴だったの?
いや、そんな表示はなかったはず。
右側は紺色の、左側は茜色の暖簾が掛けてあったもの。
それとも、コンタクトを外していたから肝心な文字を見落としたのかしら。
マズイわ、どうしよう。
上がるにしても、今は裸だし。