不機嫌な果実


裸眼ではほとんど見えないに等しい麻紀の視力。


自宅でしかめったに掛けない、牛乳瓶の底並みの分厚いメガネを愛用している。


さすがの相澤も驚いたほどのド近眼だ。


その相澤にだって、メガネ姿を披露したのは、付き合い出してからだいぶ経ってのことだ。


この状況、自分にとって良いのか悪いのか。


自分は見えていなくても、見知らぬ相手に見られてしまう自分の裸体。


『旅の恥はかき捨てろ』と云うけれど、やっぱり恥ずかしい。


脱衣所に戻るにはあの扉を通る他、道はない。


前を晒すより、後ろを晒した方が痛手は少ない。


うん。それしかない。



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