不機嫌な果実


「しっ!静かにして下さい。あまり騒がないで」


耳元で囁くその声に、聞き覚えがあった。


いや、聞き覚えどころか、よく知っている。


嘘でしょ。まさか……!


一瞬、麻紀の抵抗する力が弛んだ。


「なんで、どうして?」


麻紀の言葉を遮るように、抱き締める腕が強まった。


「ちょ、ちょっと」


布ごしのときは、こんなにドキドキしなかったのに。


お互いが素っ裸だというシチュエーションのせいか、麻紀の心臓は壊れそうなほどに鳴り続けた。





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