不機嫌な果実
〈4〉酸っぱいレモン
――…あぁ、いやだ。
またあの日の光景が蘇る。
窓枠に手を付き、隣のビルを眺めていた麻紀は、ふうーっと小さく溜め息を漏らした。
昼間だというのに厚い雲に覆われた今日の空は、どんよりとしていて今にも雨が降り出しそうだ。
天気予報を信じて、傘を持ってきて正解だったな。
――そのときだった。
「あ〜あ。また幸せが逃げちゃいますよ!」
「――えっ?」