不機嫌な果実
連絡を受けた小菅は、携帯と財布だけ手にし、指定された病院へとタクシーを走らせた。
深夜ということもあり、国道を走る車は少なかった。
15分足らずで、目的地の病院に辿り着いた。
その界隈ではわりと大きな総合病院で、タクシーの横をちょうど一台の救急車が通り過ぎた。
『救急外来』と書かれた看板が、暗闇の中で訝(いぶか)しく照らされている。
真夜中の病院は薄気味悪い程に静まり返っており、昼間以上に不気味さを漂わせていた。
小菅は、病院特有のこの匂いが昔から苦手だった。
幼い頃、公園の遊具から滑り落ち、額を10針も縫う大怪我を負ったからだ。
そのときのトラウマが、今だに残っているのだ。
局所麻酔しているから痛みは感じないものの、カチャカチャと金属音を立てる、あの生々しさが未だに忘れられない。
ふぅーっと、一度大きく息を吐くと、小菅は覚悟を決めて受付に向かった。