不機嫌な果実
医師が病室を去った途端、小菅の中で何かが崩れ始めた。
立っているのがやっとで、ベッド脇に備え付けられた簡易パイプ椅子にドカッと腰を下ろした。
――なぜ、こんなことを。
生まれて初めて経験する、身体中の血液が放出されるような感覚。
悲しいとか、可哀想そうとか、そういった感情を通り越した感情。
やりきれない思いが募る。
その先には、『無』があることを初めて知った。
小菅の身体は、『無』という物体に頭の天辺(てっぺん)から爪先に至るまで全身覆われているようだった。
そして、それとは引き替えに、急速に小菅の心は冷めていった。
少しでも彼女のことを心配した自分を、悔やむほどに。
しばらくの間、彼女から連絡があっても距離を置こうと、心に決めた瞬間だった。