不機嫌な果実


「あぁ、会社の同僚です。ね、渡辺さん?」


「あっ、うん。そうなんです。小菅君が営業で、私が総務なんです。お二人は?」


「姉貴の友達、その弟、って感じですかね?」 



「あぁ。まぁ、そんなところだ」


麻紀の胸がチクンと痛んだ。


小菅の姉と柏木が、友達の関係を越えた仲のように聞こえたからだ。


でも、それを確かめる勇気がない。


柏木は、先程と変わらず、グラスに入ったカクテルに手を伸ばした。 


何事もなかったかのように。


やっぱり、落ち着いている。

誰かさんとは大違い。 


麻紀も心を落ち着かせようとグラスに手を伸ばし、静かに口に含んだ。




< 69 / 210 >

この作品をシェア

pagetop