不機嫌な果実
「あぁ、会社の同僚です。ね、渡辺さん?」
「あっ、うん。そうなんです。小菅君が営業で、私が総務なんです。お二人は?」
「姉貴の友達、その弟、って感じですかね?」
「あぁ。まぁ、そんなところだ」
麻紀の胸がチクンと痛んだ。
小菅の姉と柏木が、友達の関係を越えた仲のように聞こえたからだ。
でも、それを確かめる勇気がない。
柏木は、先程と変わらず、グラスに入ったカクテルに手を伸ばした。
何事もなかったかのように。
やっぱり、落ち着いている。
誰かさんとは大違い。
麻紀も心を落ち着かせようとグラスに手を伸ばし、静かに口に含んだ。