不機嫌な果実


「あー、それより渡辺さん、なんで先に帰っちゃったんですか?俺、昼間、誘ってたはずですよね?
帰社したら渡辺さんいなくなってるからすごく落ち込んだんですよ」


「えっ、それは……。
仕事があったし、それに私が帰ろうとしたとき、小菅君、外回りでいなかったから」


いや、本当は小菅がいないのを見計らって会社を出たのだ。


でも、ここはひとまず、そういうことにしておこう。


「ひっどいなぁ、渡辺さん!約束したんだから待っててくれてもよかったのに。
でも、こうして会えたってことは、やっぱり赤い糸で繋がってるんですね、俺たち」


「ぶっ」 


危うく、口に含んでいたカクテルを噴き出しそうになった。 


いい大人が何、メルヘンちっくなことを言ってるのよ!



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