不機嫌な果実
そうして、退社までの時間は瞬く間に過ぎていった。
今日は、美和の甘ったるい声もさほど気にならなかった。
相澤の姿を目で追うようなこともなかった。
二人のツーショットも何度か目にしたけど、胸がチクリとすることもなかった。
ようやく、あたしも慣れてきたということかしら?
免疫力がついた?
そんな麻紀が帰り支度をしていると、小菅は躊躇うことなく声を掛けた。
「渡辺さん、例の打ち合わせ、どこでしましょうか?」
「あっ、うん。任せるわ」
今まさに、小菅のことを考えていたなんて、本人に知られるわけにはいかない。
なんとなく胸が騒ついたけど、麻紀は無理矢理それを鎮めた。