不機嫌な果実


6人も乗ると窮屈なほどのエレベーターの中では、小声で話すカップルの声だけがした。


声を発するのも躊躇われ、麻紀は正面のフロア階を示すランプをただ見つめていた。


麻紀のすぐ後ろには小菅が立っていた。


他の人から遠ざけるように、小菅がピタッと寄り添った。


耳元には小菅の息遣いが聞こえてきたが、麻紀は素知らぬふりをした。


ふと、男性と二人きりで食事するなんていつぶりだろう、と思った。


社内旅行の打ち合わせとはいえ、二人きりなんて、本当に久しぶり。


弘樹と別れてからは、接待で上司と飲みに行くぐらいだったから。


そんなことを考えているうちに、エレベーターのドアが開き、次々と乗客が降りていった。


そして、エレベーターに残されたのは、麻紀と小菅の二人だけとなった。



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